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2003-08-03

_ 監督:庵野秀明、出演:岩井俊二『式日』

7月24日にDVDが発売されていたわけですが、ツタヤが旧作半額キャンペーンをやっていたのでついでに借りてきました。ていうか新作も半額になるとカン違いしてました。

で、「『式日』主演」というのはいつも岩井俊二の公式プロフィールに載ってないので、東京都写真美術館での公開を見逃してからずっと気になってたんですが、岩井演じる「男・カントク」はすごく良かった。映画監督は演技がうまいという定説はここでも守られてますね。ちょっと足りない少女に振り回される情けない男役がかなりハマっているので、これからも俳優業をやっていってほしいと思いました。塚本晋也のようなポジションもいいのではないかと、勝手に思ったり。

_ なぜ学者はリネージュが好きですか? (via network styly *)

これまで何度かカリフォルニア州立大学のエドワード・カストロノバ教授がリネージュを題材としてオンライン・ゲーム上の経済活動に関する論文を発表してることを紹介しました*1が、日本でもやっとオンラインゲームに関する論文が出てきました。東大人文社会研究科の池田謙一教授(紹介個人ページ)による調査です。

この調査はカストロノバ教授のものとは異なり、ゲーム内の社会活動を独立的に捉えるのではなく、あくまで現実社会との関連を捉えようとしているようですね。現実のプレーヤーが「社会性」を持っているか、他人とコミットする可能性があるかどうかという点に着目しています。この調査は、オタクや引きこもりといった観点からも注目すべき結果でしょう。

ただ、「オタク≒社会性がない」という命題が真実味を持たなくなってきたことは、インターネット登場直後あたりから(あるいはそれ以前から)オタク社会の周辺では気づかれていたことだと思います。オタクであっても同じ趣味を持つ人同士は常にコミットしていたのだし、最近のコミックマーケットの参加人数は1日あたり10万人を超える*2とも言われますから、まったく他人との接点がないとは言えません。「同じ趣味を持たない人とコミュニケーションがとれない」というなら妥当性がありますが、少なくとも記事の中にそういう観点はないようです。

学術研究によって広く認知されるという意義はともかく、何をいまさらという感じがしなくもありませんが、これを叩き台としてオタクと引きこもりの間には一線を引くべきだという点を再確認するのはいいでしょう。単純化してしまうけど、「オタクで社会性がある」、「オタクで引きこもり」、「オタクではなく社会性がある」、「オタクではないが引きこもり」という四象限分類ができそうだと*3。だから、 CNET と ZDNet の記事が「オンラインゲームユーザー=オタクではない」という言い方をしているのはちょっとずれていると思います*4

ほかにもこの論文には、韓国におけるリネージュ・ユーザーに対する調査と日本のそれを比較した比較文化論の側面もあるらしく、こちらも興味深いです。特に韓国よりも日本のほうが「血盟」(クラン)への参加率が高いらしいという結果は意外でした。前に(ツッコミ欄で)韓国のほうが階層秩序が強そうだというような予測もしましたが、韓国より日本のほうが帰属意識は強いんですね。むしろ血縁よりも地縁や偶然の結びつき(プロジェクト型?)による結束が強くなるということなんでしょうか。

とりあえず論文を読んでみたい。

*1 ギル価 (20030216)「『エバークエスト』に女性差別? 米経済学者発表」(20030627)

*2 コミケに参加するだけで社会性を持っていると言えるかどうかも検討の余地がありますが、これ以外にもオタクが「同類」とコミュニケーションをとる例はいくらでもあるでしょう。

*3 でも、テレビのドキュメントで見た「今夜の皿洗いをどっちが担当するかをゲーム内のPK勝負で決める夫婦」を考えると、まっとうな社会性があるのかどうかはちょっと疑問。ヤラセかもしれませんが。

*4 「池田氏は『リネージュは社会性の強いコミュニティゲームであり、オタクのものと考えると本質をとらえ損ねる』と結論付ける」(CNET の記事)というあたりはイヤな予感が。