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2003-08-18

_ 寂しさを論理命題にしてみると 「1(しょうなり)2」 したがって1

今月も携帯電話の課金明細が届いていた。5月には基本料金に含まれている3000円分の無料通話マージンを700円ほど残してしまったので「もう少し人に電話をかける」という目標を掲げ、6月はほぼキッチリ使い切ったのだが、7月は870円も残っていた。増えてる。

ただでさえ人に電話をかける用事は少ないし、一緒に何かするとかどこかに出かけようともなかなか思わない。かといって、ただ電話を目的として電話をかけようとも思わない。人と話すことにそれほど期待できないんだろう。独りで過ごしていてもそれほど楽しくはないが、複数になったところでそれが変わるという期待も、残念ながらできない。たとえば寂しいと思ったとして、人から埋め合わせてもらえるとも思わないし、誰かのそれを埋められるとも思わない。誰かが僕を楽しませようとしても僕はそれを楽しまないだろうし、だからこそ誰かを楽しまることもできない。楽しませれば、楽しくない。少なくとも今はそんなかんじだ。

僕だけが悪いのではないし、また「友人」たちだけが悪いのでもないだろう。素晴らしい共犯関係——もしそこに「関係」と呼べるようなものがあるとすればの話だけど。

_ 吉村萬壱『ハリガネムシ』 (「文藝春秋」九月特別号)

この二人、韻を踏むのは意図ですか? 吉村萬壱、花村萬月。と最初から気になって仕方なかった芥川賞受賞作/家。初出は「文學界」五月号。

高校の倫理教師が、ビジネスライクな関係を一度だけ結んだソープ嬢と半年後に再会、というよりは半ばムリヤリ押しかけられたまま、その関係に押し流されて……という話。

きもちわるい。といっても読んで本当に吐いたりはしないのだが、とにかく今の自分のコンディションで読むにはキツかった。三浦哲郎が選評「感想」で述べている「今の私にはちと荷が重すぎた」というコメントに思わず共感していた。色情狂とか暴力魔とかキチガイとか変人とかサブカルはいらないから、もっとまともな人が出てくる話が読みたい。

この作品を推す委員は多かったが、私にはそのようなものに何も目新しさを感じなかった。それどころか、また古臭いものをひきずり出してきたなという印象でしかなく、読んでいて汚ならしくて、不快感に包まれた。(宮本輝)

まさに。前期受賞作の『しょっぱいドライブ』が地味目でどうも評判よくなかった*1ことを受けて、今回はわかりやすい話にしたのかなと邪推したり。

とはいえ、ほとんど倦むことなく最後まで読み通してしまったことに後から気づき、この違和感も含めて狙ったところに誘導されてるのかしらんと思ったりしてしまい、複雑な心理描写に踏み込まずただ事件を叩きつけてゆくあたりはやはり巧いのか。後追いで事件に深みを与えないということは、この違和感もそれほど後を引かずに抜けていってしまうのかもしれないけど、そこをどう評価するかは意見が分かれそう。暴力が後に何も残さないことのほうがむしろ重苦しいとも思える。

作品自体よりも、選評のバラバラぶりというか身勝手ぶりというか、みんなで好きなことを言ってるのが面白かった。選評は受賞後に書いてるので、もちろんそれなりにまとまっている部分もあるんだけど、その外でそれぞれが好き勝手なことを言う。石原慎太郎は『ハリガネムシ』かなり好きそうなのに納得。

しかし何と言っても注目は、今回初参加の山田詠美。ひとりボケツッコミ、疑問符に感嘆符、「指くわえたら、本当にイモ虫だった、とかさ。(安易ですいません)」、「ガールパワーここにありって感じで」などなど、Web日記じゃねえかこれ*2。それを悪いとは思わなくて、むしろ「これでいいんじゃん」という無意味な安心感を得られた。これだけでも立ち読みする価値はある、かも。次回はお歴々からのプレッシャーで文が固くならないことを祈る。無用か。

中村文則『遮光』は「前作で期待してたのに……」みたいな言い方が多かったので、前作『銃』を読みたくなった。

*1 未読なので、見聞きした範囲の噂を総合しています。

*2 逆?